不正競争防止法の施行が新たな段階へ:5 つの監督シグナルと知的財産権への影響

CHANG TSI
Insights

しがつ09
2026

はじめに

このほど、国家市場監督管理総局は『中華人民共和国不正競争防止法の更なる徹底実施に関する通知』(以下『本通知』)を発表し、2025 年改正版『不正競争防止法』(以下『新法』)の施行に関する方針を定めました。本通知は全 13 条で構成され、執行重点、制度整備、能力保障、社会連携管理など多方面をカバーし、新法施行後に公表された体系性の高い重要実施文書になります。

2025 年改正版新法は、データ権益保護、ネット不正競争規制、域外適用等の分野で画期的な進展を遂げました。本通知は立法上の制度改正を実行可能な監督体制・執行ルートに落とし込み、規定を『適用可能』から『如何に適用』へと転換させています。本稿は知的財産権保護の視点から、知的財産に関係する五つの方向性を軸に変化と影響を解説いたします。

一、不正競争の域外適用:制度表明から実務運用へ

本通知第 7 条は域外適用に関する方針を定め、海外で行われた虚偽宣伝、ネット不正競争、商業誹謗、営業秘密侵害などの行為につき、国内市場秩序を混乱させ、国内事業者・消費者の合法権益を損なう場合、厳しく取り締まると明示しました。これは新法第 40 条域外適用規定の執行措置であり、同時に『中華人民共和国不正競争防止法適用に関する最高人民法院の若干の解釈』第 27 条とも連動し、海外に発生しがが国内に損害結果が生じた不正競争行為に対し、結果発生地裁判所が管轄権を行使可能であることが明確化されています。立法、司法、行政執行が連動し、域外不正競争の規制体系が形成しつつあります。

これまで独占禁止法に域外適用規定が設けられていたものの、不正競争分野には長らく制度枠組みと実務指針が欠けていました。本通知は原則面での確認にとどまらず、具体的な執行体制整備の方針を示し、域外執行を実行可能名推進段階へと移りつつあります。

クロスボーダー権利侵害はブランド権利者が長年直面する権利救済上の課題です。新法40 条はは効果主義を採用し、行為者の登録地や行為実施地ではなく、行為が国内市場秩序を攪乱し又は国内事業者の権益を損なうか否かを判断基準としています。この考え方は実務上頻発するクロスボーダー侵害への対応に極めて重要であります。例えば、侵害者が海外で国内有名ブランドと酷似したペーパーカンパニーを設立し、クロスボーダー EC サイトや SNS を通じ中国市場向けに虚偽宣伝を行い誤認を生じさせる行為は、対象市場と損害結果がいずれも国内に生じるため、域外適用条項の規制対象となります。

実務上より隠蔽性の高い類型も存在します。侵害者が海外にペーパーカンパニーを登録し、同社を出資者として国内に関連会社を設立し、国内市場で海外原産を標榜し権利者ブランドと出所混同を引き起こすケースであります。この場合、虚偽宣伝や模倣混同行為の主要実施地は国内のため、権利者は新法第 7 条・第 9 条に基づき国内関連会社に対し直接権利主張できます。一方、国内法人を貫き海外ペーパーカンパニーの責任を追及する際、特に海外主体が虚偽のブランド許諾や企業沿革の捏造により国内混同行為を実質的に支える状況においては、新法第 40 条が上流侵害責任追及の法的根拠となります。域外・国内執行の連携により、権利者が侵害連鎖を断ち切るための整備された制度手段が整う見込みであります。

中国進出多国籍企業にとって、中国市場を対象に行われる海外競争行為に中国当局の域外管轄が及ぶ可能性があります。一方、海外進出中国企業は、海外で受けた商業誹謗・営業秘密侵害につき、今後国内行政ルートで救済を求めることが可能であり、民事・刑事に続く第三の権利保護経路が確立されます。

二、ネット不正競争監督:制度整備の難局段階へ

ネット不正競争は、本通知が重点的に取り組むもう一つの主要な柱です。執行面と制度面の両方から同時に推し進められます。
執行面において、本通知第 4 条は、新法に定められたデータ権益侵害を禁止する個別規定を活用し、データに関する不正競争行為を的確に把握するよう求めています。また、人工知能など新興産業に対する保護を強化することも明記しています。トラフィック乗っ取り、悪意のある妨害、悪意の非互換行為、プラットフォームルールの濫用による架空取引や虚偽評価などは、継続的な取り締まり対象とされています。

制度面では、本通知第 8 条において、『ネット不正競争禁止条例』の制定検討を推進する方針が示されています。これまで市場監督管理総局は 2021 年 8 月『ネット不正競争行為禁止規定』に対して意見募集を実施し、2024 年 5 月には『ネット不正競争暫定規定』を正式に公布し、同年 9 月 1 日より施行しました。しかし同規定は省庁規則に該当し、暫定という性質から経過的な位置づけとなっています。今回の通知で条例制定の推進が明確になったことで、ネット不正競争の規制は省庁規則から行政法規へ格上げされ、法的効力と制度の拘束力が大幅に高まります。

ネット競争ルールの制度化は、権利者に多方面の影響をもたらします。競争法によるデータ権益保護は理論議論から実際の執行段階へ移行し、利用者データ、取引データ、訓練データを含む企業のデータ資産は、より実質的な法的保護を受けられるようになります。AI 企業やデータ集約型企業にとって、データの収集、利用、取引における権利の境界は厳格化され、権利者の保護請求の余地は拡大されます。併せて検索ランキング、アルゴリズム推薦、評価システムなどで生じる模倣混同行為や虚偽宣伝についても、より詳細な規制が適用されます。

三、営業秘密保護:個別案件の執行から体系的整備へ

本通知第 6 条は、営業秘密保護について「ルール — サービス — 基準 — 認証」からなる完全なる構築プロセスを提示しています。ルール面では「営業秘密保護ルール体系の整備」を求め、各地が「地域の実情に合わせて営業秘密保護法規や管理規範の制定を検討する」ことを奨励しています。サービス面では「営業秘密保護サービス拠点の建設」を推進し、「専門機関・専門人員の配置」を求めています。基準面では「営業秘密保護基準の早期制定」を求め、認証面では「国推営業秘密保護管理体系認証制度の推進」を掲げています。

このような体系的な方針から、営業秘密保護は個別案件の執行を中心としたモードから、体系的・標準化・恒常的なガバナンスモードへと転換していることが明らかです。2026 年 2 月に国家市場監督管理総局が公布した『営業秘密保護規定』(2026 年 6 月 1 日施行)、および今年の全国両会期間中に最高人民法院・最高人民検察院がそれぞれの活動報告で営業秘密案件を重視していることを合わせると、営業秘密保護は行政・司法・立法の複数の側面から同時に強化されていることがわかります。

技術集約型企業や、核心的な製造工程・処方・顧客データを保有する企業にとって、国家基準に適合した営業秘密保護管理体系の構築は、「加点要素」から「必須要素」に変わりつつあります。特に「国推認証」制度が実施されれば、企業の営業秘密保護能力は定量化・比較可能になります。「国推認証」とは、国家認証監督管理委員会または同委員会が国務院関係部門と共同で推進する任意認証制度で、統一された認証基準・ルール・手続きを用います。この認証は、行政執行や司法訴訟における企業の立証能力(認証取得の有無自体が「合理的な秘密保持措置を講じた」証拠となる)に影響するだけでなく、政府調達・資格審査・投融資デューデリジェンスなどの場面での競争力にも影響します。

企業には、営業秘密保護の内部整理と体系構築を早期に開始し、秘密の識別・階層管理、権限管理・アクセス記録、従業員・取引先の秘密保持管理、退職時の引き継ぎ・競業避止義務の設定、情報漏洩時の緊急対応などの重要なプロセスに重点を置くことを推奨します。

四、典型的な不正競争行為の抑止:知財保護の直接手段

本通知第 5 条は、模倣混同行為、虚偽宣伝、営業秘密侵害、不正な景品付き販売など、頻発する不正競争行為に対する取り締まり姿勢を継続するとともに、執行基準をより詳細に定めています。その中で、知的財産保護に最も直接的に関わるのは 2 つの詳細規定です。新法第 7 条第 2 項は、他人の商品名・企業名・登録商標・未登録の馳名商標などを検索キーワードとして設定する行為を混同行為と明確に位置づけると同時に、「他人の混同行為を助長する行為」の禁止規定と、違反商品販売者の法的責任を新たに追加しました。これらの新法条項は、ブランド権利者のオンラインでの権利保護に法的根拠を提供していますが、執行実務での正確な適用には、さらなる明確化が必要です。

本通知の意義は、これらの新設条項に執行面での運用指針を与えることにあります。検索キーワードによる混同行為などの規定の構成要件を「正しく把握」し、混同行為の助長者・違反商品販売者の法的責任を「合理的に定め」、「保護範囲を過度に拡大せず、違法行為を見逃さない」よう求めています。ブランド権利者にとって、プラットフォーム事業者・販売代理店など中間段階の責任の境界が明確になり、権利保護の対象を直接侵害者から、権利侵害の連鎖を助長する者へと拡大できることが期待されます。

ブランド権利者にとって、模倣混同行為・虚偽宣伝などの行為に対する執行の詳細化は、商標法・特許法に加え、不正競争防止法がより実行可能な補完的な権利保護手段を提供することを意味します。

五、インボリューション型競争規制:立法から執行実務へ

改正版不正競争防止法は、「インボリューション型競争」の規制を立法に明記し、プラットフォーム事業者がプラットフォーム内の事業者に原価を下回る価格で商品を販売することを強制または間接的に強制する行為を明確に禁止しています。本通知第 2 条は全文の中で最も幅が長く、最も具体的な表現が用いられた条項であり、新法の内容をさらに詳細化した執行プロセスを示しています。プラットフォーム経済、太陽光発電、リチウム電池、新エネルギー自動車などの重点産業を明記し、プラットフォーム企業が検索ランキング・アルゴリズム制御・アクセス制限などの手段を用いて強制的に低価格販売を行わせる行為の類型を具体的に指摘し、プラットフォーム事業者に主体的な責任を徹底させ、不正競争行為の内部発見・処理体制を構築するよう求めています。

「インボリューション型競争」自体は、市場秩序や価格競争の範疇に属し、伝統的な知的財産保護との関連は最も直接的ではないものの、知的財産保護の延長的な視点から注目する価値があります。実務上、低価格競争の環境は、模倣混同行為や虚偽宣伝行為の温床になりやすいです。プラットフォームがアルゴリズム制御・アクセス配分などの手段で事業者に販売価格の引き下げを迫ると、一部の事業者は利益を確保するため、有名ブランドの包装・意匠を模倣したり、製品の機能や資格を虚偽表示したり、架空取引・架空評価で販売実績を偽造したりする手段で競争優位を得ようとする傾向があり、これにより生じる商標権侵害や不正競争紛争は電子商取引分野では後を絶ちません。

ブランド権利者にとって、本通知による「インボリューション型競争」の規制方針は、模倣混同行為・虚偽宣伝などの条項と連携し、プラットフォームによる強制的な低価格化を元から抑えることで、低価格圧力によって生まれる模倣侵害の発生を減らすことに役立ちます。また、侵害行為が発生した場合には、ブランド側は不正競争防止法を補完的な権利保護手段として、競争秩序の観点から保護を主張できます。

結び

今回の通知の公布は、改正版不正競争防止法が制度整備段階から全面的な実施段階へ移行したことを示しています。域外執行の探索的推進、ネット競争ルールの制度的深化、営業秘密保護の体系的構築、典型的な不正競争行為の執行詳細化、「インボリューション型競争」の管理実践まで、不正競争防止法の適用範囲と執行力は拡大され続けています。

データ権益保護、営業秘密体系構築、ネット競争規制、クロスボーダー権利保護などの最前線の分野で、不正競争防止法は補完的なルールから、より基礎的な制度手段へと変わりつつあります。企業にとって、不正競争防止法による保護を知的財産管理の全体的な枠組みに組み込むことは、もはや補助的な措置ではなく、イノベーション成果の保護と核心的な競争力の形成に関わる基礎的な配置となっています。企業が新しいルール環境への適合を早期に完了するほど、イノベーション優位を長期的かつ安定的な競争力に変換できる可能性が高まります。

申会娟
パートナー | 弁護士
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