40 営業日で完了したハーグ送達 —— 海外司法文書の中国国内送達に関する実務考察

CHANG TSI
Insights

ごがつ09
2026

一、案件背景と業務依頼内容

2026 年 1 月、米国クライアントが米国特許侵害訴訟において、中国国内の被告に対し米国裁判所の訴状及び召喚状を送達する必要が生じました。クライアントは鋳成法律事務所にハーグ送達条約の公式ルートを通じて送達手続きの実施を委託しました。

同種委託は珍しくありません。クロスボーダー知的財産権訴訟において、中国国内当事者へ適法に司法文書を送達することは、案件手続きの正当性と判決の執行可能性を担保する基礎的工程です。しかし長年にわたり、一部海外原告、特に米国 SAD(Seller Account Dispute)紛争大量訴訟においては、迅速に欠席判決を取得する目的で、電子メールや宅配便といった簡易的な手段で送達を済ませる慣行が見られてきました。

この手法の法的根拠は 2025 年末に根本的に揺らぎました。2025 年 12 月、米国第二巡回上訴裁判所は人気IP「Baby Shark」模倣紛争案件にて明確な判決を下し、電子メールのみで中国国内被告に文書送達する行為は適法な送達に該当しないと認定しました。裁判所の判断によると、米中両国はハーグ送達条約締約国であり、被告の住所が特定可能な場合、同条約の適用が義務付けられます。中国は条約第 10 条に留保を付し、郵送・電子メールによる直接送達を認めておりません。また原告は手続きの効率性や緊急性を理由に、条約手続きを回避することはできません。

同判決により明確なコンプライアンス基準が定められ、中国被告を相手とするクロスボーダー訴訟において、適法な送達は選択可能な手続きではなく、案件成立と判決執行の前提要件となりました。この状況において、専門的かつ規範的なハーグ送達の重要性が一層高まっています。

二、業務経緯と送達結果

受託後、当事務所は標準化された手続きに基づき送達業務を推進しました。初期段階が業務負担の最も集中する期間であり、適用法令・送達経路の確認、システム登録、送達文書範囲に関するクライアントとの複数回協議、追加書類の調整、申請書類の作成・修正、翻訳文の作成・校正などを実施しました。書類の完全性と正確性は、その後の審査及び送達効率に直接影響を及ぼします。書類一式が整い次第、オンライン提出、システム審査、官庁手数料納付を経て、裁判所の事務処理及び実際の送達段階へ移行しました。送達完了後、当事務所は関連証憑一式を取得し、クライアント向け業務報告書を作成しました。本件は受託から送達完了まで、春節の法定休暇を含め実質 40 営業日で手続きが完了しました。

当事務所は近年多数のハーグ送達案件を取り扱い、地域・案件種類を問わず豊富な実務経験を蓄積しております。送達所要期間は個別案件で大きな差異が存在し、被送達者所在地裁判所の事務処理体制・執行ペースに左右されます。最短 1~2 ヶ月、長期の場合は 6~10 ヶ月を要するケースもあり、本件は比較的迅速に処理完了した事例となります。

三、加速要因分析

本件の短期完了は、近年中国の司法協力制度における手続き最適化と密接に関連しています。

1. 司法部オンラインシステムの導入が最も重要な変化

最高人民法院が統括して全国司法協力管理プラットフォームを構築し、司法部システムと直結連携可能になりました。送達申請のオンライン提出・審査・回送が可能となり、従来の紙文書段階的送達方法が代替されました。統一された文書様式、審査基準、回送経路により、差し戻し件数とコミュニケーションコストが大幅に削減されています。

2. 省級裁判所が海外からの申請を直接対応

北京市、上海市、広東省などの高級人民法院は、外国中央機関からの送達依頼を直接受け付ける権限を付与され、中継工程が削減され、各手続き段階の処理期限も明確化されています。

3. 基層裁判所の執行対応力が向上

実際送達段階において、多くの基層裁判所がハーグ送達を重点監督案件に位置づけ、専任担当者を配置し迅速対応を行っています。本件では弁護士が現地裁判官と密接に連携協議し、担当裁判官が直接訪問送達を行い、一度で送達が成立しました。

四、実務観察と示唆

本件及び当事務所の実務経験から、注目すべき動向が見受けられます。

1. 中国におけるハーグ送達全体の処理効率が改善

従来「時間がかかり結果が不安定」と認識されてきたハーグ送達のイメージが変化しつつあります。オンラインシステム稼働、裁判所内部手続きの標準化、基層裁判所の執行力強化により、適法送達の時間コストが適正化され、全体的に良好な傾向となっています。

2. 適法送達が判決執行に及ぼす影響が増大

第二巡回裁判所の判決以降、中国被告が関わるクロスボーダー訴訟では公式ハーグ送達手続きの履行が必須となり、手続き瑕疵が生じた場合、中国国内での判決承認・執行が困難となります。権利者が単なる書面上の判決ではなく実質的な救済を求める場合、事前の適法送達手続きは不可欠です。

3. 早期の送達手続き着手が鍵

送達期間に不確実性が伴うため、海外訴訟において速やかにハーグ送達を開始することにより、案件全体の進行に時間的余裕を確保できます。申請資料を万全に準備し、現地裁判所と円滑に連携することで、手続きの遅延や再処理を抑えられます。

4. 送達業務と国内並行訴訟の連携

クロスボーダー知財紛争において送達は単独の手続きではなく、海外訴訟と国内侵害訴訟、権利化手続き、行政摘発などが同時並行で進むケースが多数です。送達スケジュールが海外訴訟の日程を左右し、国内訴訟の状況も海外案件の方針に影響を与えます。

中国知財訴訟一貫対応経験を有する弁護士チームは、送達の適法性・効率性を確保すると同時に、海外法律事務所と連携し国内外訴訟の全体調整を図り、クライアントのビジネス目的達成を支援可能です。

結び

クロスボーダー知的財産権訴訟における送達コンプライアンスは、軽視されがちな細部手続きから、案件の成否を左右する先行条件へと変化しています。中国の司法協力制度が継続的に整備される現在、ハーグ条約公式ルートによる送達は法的義務であると同時に、処理効率と結果が見通せる実務手法となりました。中国被告が関連するクロスボーダー訴訟においては、送達方針を早期に訴訟全体戦略に組み込むことが推奨されます。

呉東亮
パートナー | 弁護士 | 特許代理人
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