生体情報の取得と緊急時の判断——自動運転関連特許における二つの倫理的レッドライン

CHANG TSI
Insights

くがつ02
2026

2026年1月1日より施行された新版「専利審査指南」は、人工知能・ビッグデータ関連の発明創造について、専利法第5条第1項の下に専用の審査基準および審査例を初めて追加しました。AI関連の特許出願は、「技術的解決手段に該当するか」という保護適格性のハードルをすでに越えていたとしても、データの取得方法や判断ロジックに倫理上の問題があることを理由に、権利付与の資格を直接否定される可能性があります。しかも、この点についての反論の余地は極めて乏しく、事実上の一発アウトに近いものです。

自動運転システムは、その性質上、第5条第1項に抵触しやすい二つの場面を同時に抱えています。すなわち、車内外における生体情報の取得と、緊急時における判断配分のロジックです。対応の鍵は「条文を読み解くこと」ではなく、明細書作成段階から応答段階までを貫く対応の筋道を確立することにあります。

一、データ取得に関するリスク——法律に違反しないか

典型的な場面:ドライバーモニタリングシステムが顔の特徴を取得して疲労状態を判定する場合、車外センシングシステムが歩行者や他の運転者の顔画像を不可避的に捕捉する場合、一部の車種が顔認証によりロック解除や本人確認を行う場合などです。これらの場面は、個人情報保護法における生体情報の保護要件および「自動車データセキュリティ管理に関する若干の規定」による規制を同時に受けるため、専利法上の要件とあわせて評価する必要があります。

リスクの判断:顔、声紋、歩容等の生体認証に関わり、かつ利用者が認識していない、または同意していない場面は、いずれも抵触のリスクがあります。セキュリティや公共の安全など法定の適用除外に当たる場面は比較的安全ですが、商業マーケティングやユーザープロファイリングに類する場面については、特に慎重な検討が必要です。

想定される技術的解決手段の調整方法:

  • コンプライアンス確認を技術的解決手段の機能モジュールとして設計する——「気付かれずに撮影する」構成を「利用者の承諾確認」ステップを含む構成に改め、背景技術の記載にとどめるのではなく、明細書および請求項に記載します。
  • データのマスキング・匿名化を技術的に組み込む——中核的な目的が正確な本人特定を必要としないのであれば、「特徴抽出後、直ちに元の生体情報を削除する」といったステップを追加します。
  • 適用場面を法定の適用除外に絞り込む——当該手段が実際にセキュリティや公共の安全に関わるものであれば、その位置付けを明確に打ち出し、商業マーケティングではなく適用除外に近づけます。

二、判断ロジックに関するリスク——社会公徳に反しないか

典型的な場面:緊急時の判断モデルが、歩行者の性別や年齢等の属性に基づいて保護対象と衝突対象とを区別する場合、それは社会公徳に反するものであり、公式の審査例が直接想定しているリスク類型に該当します。より広くいえば、性別、年齢、人種、障害の有無等のセンシティブな属性を判断の区別基準とする手段は、いずれも高リスクです。

なお、公式の審査例が明示的に取り上げている性別・年齢の場合のほかにも、実務上は、同じ審査の論理から推論されるものの、公式例による直接の確認がなされていない潜在的なリスク場面が存在します。例えば、車内の乗員数や車両価格に基づいて回避経路を差別的に選択する場合、車線変更や追越しの判断において車種ごとに異なる通行優先度を設定する場合、駐車支援や送迎の判断において利用者の会員ランクに応じて安全冗長性の異なる経路計画を提供する場合などです。これらは、公式例の中核にある「生命の平等」という価値判断とは完全には同一でなく、財産や社会的地位が安全資源の配分に影響してよいのかという公序良俗上の問題により近いものです。リスクの確実性は公式例より弱いため、企業としては、結論の確定した高リスク類型としてではなく、注視は必要だが審査の運用を見極めるべき類推的リスクとして位置付けることをお勧めします。この類型の最大の難点は、区別のロジック自体が、緊急時の判断に関する発明の進歩性を基礎付ける論拠となっていることが多い点にあり、回避の難易度は第一の類型より明らかに高くなります。

想定される技術的解決手段の調整方法:

  • センシティブな属性を中立的な物理的・挙動的特徴に置き換える——「性別・年齢」を、体格寸法、移動速度、姿勢の安定性、軌跡予測の信頼度など、センサーが直接観測できる物理量に置き換えます。これにより判断の正当性も、「社会的弱者という属性の保護」から「衝突リスクの物理量に基づく最適化」へと転換されます。
  • 目的関数を「特定対象の差別的保護」から「全体の被害最小化」へ変更する——所与の物理的制約の下で全体の衝突エネルギーまたは傷害確率を最小化する構成とし、歩行者の属性を分類する必要そのものをなくします。
  • 区別的取扱いのロジックを完全に除去する——汎用的なリスク回避戦略のみを残し、技術的貢献を回避経路の計画アルゴリズム自体の効率向上に移します。

三、手段の調整に当たって留意すべき要件相互の連動

第一の類型であれ第二の類型であれ、手段の調整に当たっては、第5条第1項と進歩性および十分な開示の要件との連動に留意する必要があります。第5条第1項が求めるのはプロセスまたは技術的特徴のレベルでの実質的な調整であり、進歩性は独立した技術的貢献点による裏付けを要し、十分な開示は適切かつ過度にわたらない技術的詳細の記載を要します。これら三つは、それぞれ別個に確認し、別個に充足させなければなりません。この連動関係は、第二の類型(判断ロジックの置換)において特に顕著です。センシティブな属性に係る特徴を置き換えれば、実際に対比すべき先行技術の範囲も変わります。したがって、「表現を置き換えれば問題は解決する」と当然に考えるのではなく、置換後に一度サーチを行い、新たな技術的特徴の組合せが依然として進歩性の基礎を備えているかを確認することをお勧めします。

四、技術的解決手段の調整以外の対応策

1.問題の所在を見極める——請求項が十分に上位概念で記載されており、倫理上の問題が明細書の具体的な実施例にのみ現れているのであれば、当該実施例を削除すれば足ります。これは通常の削除的補正であり、新規事項の追加には当たらないため、比較的容易に解決できます。

2.「従属請求項の削除」と「分割出願」の適用場面を区別する——リスクが従属請求項のみに存在し、独立請求項自体には問題がない場合、最も直接的な方法は、審査意見通知書への応答時に当該従属請求項を削除することであり、コストも最小です。分割出願は、センシティブな属性に係る特徴を「適法なものに変える」ものではありません(分割後も審査が続けば、同様に拒絶のリスクに直面します)。分割出願の真の価値は審査の進行を切り離せる点にあり、独立請求項を早期に権利化したく、争いのある従属請求項によって全体の審査ペースを遅らせたくない場合に、当該従属請求項を分割したうえで実質的な補正を加える、という使い方になります。

3.当該特徴が必須技術的特徴ではないことを主張する——センシティブな属性を削除しても、技術的解決手段がその技術的課題を解決し、技術的効果を奏することに影響がないのであれば、当該特徴の削除を求めることができます。

4.営業秘密への切替え、または再設計後の再出願——中核的な進歩性がセンシティブなロジックの上に成り立っており、書き換えの余地がない場合には、営業秘密による保護への切替え、または再設計のうえで新規出願として提出することを検討するほうが現実的です。この判断は、審査意見通知書を受領してから着手する必要はなく、研究開発段階での評価を経た時点で決定することができます。

結び

自動運転関連企業にとって、第5条第1項の下での倫理リスクは、一度限りのコンプライアンス対応事項ではなく、センシングによる情報取得と緊急時の判断設計に常につきまとう構造的な問題です。より有効な対応は、審査意見通知書を受領してから事後的に手当てするのではなく、研究開発および明細書作成の段階で能動的に回避設計を完了させることにあります。すでに審査段階に入っている出願についても、早期に問題の所在を見極め、各対応策の実行可能性を評価することで、応答の繰り返しによる不要な時間と費用の消耗を避けることができます。

 

屈小春
パートナー | 弁護士 | 特許代理人
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